4月22日は地球環境について考える「アースデイ」です。この日に合わせて、小規模生産者においても、持続可能な社会の実現に向けて行動する機会としたいと考え、サステイナブルなワイン造りの取り組みをご報告いたします。
1、創業以来の企業理念
株式会社兎ッ兎(代表取締役:前岡美華子)が運営する兎ッ兎ワイナリーは『ぶどうとワイン造りをとおして人がつながり夢と未来を創造する』ことを理念とし、自社栽培のぶどうによるワイン造りに取り組んでいます。
創業以来、ワインの総売上推移はおかげさまで2021年は2018年比で278%増と成長を続けることができました。
2、兎ッ兎ワイナリーを取り巻く地域環境の問題
2-1 耕作放棄地の増加
創業以来より、当社が所在する鳥取市国府町麻生地区では、少子高齢化や農業の後継者不足に起因する「耕作放棄地の増加」が大きな問題になっています。
表1は国府地域の遊休農地の状況をまとめたものです。遊休農地のB分類が耕作放棄地に該当します。
表1:平成28年から令和2年における国府地域の遊休農地の状況※1
2-2 気候変動
近年は世界中で気候変動が激しく、鳥取市でもそのような傾向がみられます。図1は鳥取市の
年間平均気温の推移と3年移動平均を表したものです。数年前から平均気温が約1度上がっていることがわかります。
気温が上がることで、病気の発生や水分の不足などに繋がり、ぶどうの生育と実りに被害が生じやすくなります。
図1:鳥取市の年間平均気温と3年移動平均の推移※2
3、創業以来の取り組んできた成果
3-1 ワイン造りの原点である「土造り」
■ 耕作放棄地の農地化
当社は、地域の耕作放棄地をぶどう畑に転換する取り組みを行っています。創業当初の2015年から2021年にかけて1.48haの耕作放棄地を段階的にぶどう畑などへ転換してきました。図2はぶどう栽培面積の推移になります。
図2:ぶどう栽培面積の推移
※成園:ぶどうが収穫できる状態のぶどう畑のこと。通常、未成園が成園になるまで3年程度かかる。
■ 畑に余計なものを入れない土造り
当社は地域の水田や畑を耕作し、ぶどう畑にしています。ぶどう畑に化学肥料を多く使えば、当社の畑のみならず、周囲の畑や水田に肥料成分が流れ込み土壌の劣化に繋がります。地域の土地を守り、何世代も先にぶどう畑を継承するために『畑に余計なものを入れない土造り』の理念のもと、3つの活動に取り組んでいます。
① ぶどうのしぼり粕を利用した肥料
当社はぶどうのしぼり粕を肥料として再利用し、次シーズンのぶどうの栄養にしています。しぼり粕はワインの醸造過程で発生するぶどうの果皮や軸のことです。図3は2020年と2021年のしぼり粕の利用状況を表しており、当社ではワイン用ぶどう総収量のうち2020年は27%、2021年は26%を肥料として再利用しています。しぼり粕からなる肥料は、ゆっくり土に分解されるため長期間にわたり畑に栄養を与えることができます。
図3:2020年と2021年のぶどうの総収量
写真:ぶどうのしぼり粕を利用した肥料
写真:畑に肥料をまく社員
② 緑肥の導入
緑肥とは植物そのものを肥料として利用することです。当社では、畑に栄養を補給するために、緑肥植物の一種である「シロツメクサ」を使用しています。「シロツメクサ」はぶどうの成長に欠かせない窒素を空気中から土中へ取り込み地力を回復します。緑肥植物を活用することで、窒素などの栄養供給を外部の肥料に頼らない栽培が可能です。
写真:緑肥を活用している圃場
③ 除草剤の不使用(草生栽培)
当社は、土壌汚染、生物多様性の減少など自然に悪影響を及ぼす可能性のある除草剤を使用していません。雑草は全て、機械または人間の手で刈っています。刈られた草は土中微生物によって分解され肥料になり、ぶどうの栽培を助けることができます。
写真:自走式草刈り機で草を刈る社員
3-2栽培・醸造環境に直結する『省エネ』
■ 再生可能エネルギーへの変換
当社は、自家栽培のぶどうそのものの味をしっかりワインに反映させるために、低温醗酵にこだわったワイン醸造を行っています。その際、ワインを継続して冷却する必要があるため多量の電力を消費します。今後もワインの風味にこだわり、醸造を続けていくには、電力消費に向き合わなければなりません。
そこで、当社は2020年8月から、ワイン醸造に使用する電力を再生可能エネルギーにシフトいたしました。その際には、鳥取に根差した電力会社を選択することで、電力の地産地消とも呼べる経済の地域循環を生み、より地域に寄りそうものになりました。
■ 電力の効率化について
図4は当社の消費電力の実態です。
図4:当社醸造所の年間電気使用量推移
毎年、ワイン醸造が始まる8月から電力使用量が増え、醸造が終わる2月頃に減少します。夏場は比較的少ないですが、ワインの保管のため電力を使用しています。
表2:各電力会社におけるワイン仕込み量1kgあたりの使用電力量
とっとり市民電力にシフトした結果、前年比3.9%の電力利用効率化ができました。今後も仕込み量1kg当たりの使用電力量をより効率的に使用していく努力を進めていきます。
4、気候変動に適応したぶどう品種の選抜
気候の変動により栽培が困難となった品種やこれから難度があがると言われる品種があります。鳥取も猛暑や豪雨などの異常気象が多く見られるようになりました。このような気候環境下において、当社は、耐暑性、耐裂果性、耐病性が高く、安定した収量を確保できるぶどう品種を獲得するために、京都の梅垣ぶどう園監修のもと、選抜したおよそ15品種のぶどうを栽培しています。今後はさらに鳥取の気候に適した品種を選抜し、鳥取で優れたワインを生むぶどうを栽培していきます。
また、当社オリジナル品種の栽培も進めて来ました。既存の品種には無い、強い環境適応性とぶどうとしてのおいしさ、ワインに醸造したときに個性を持つこの品種は2022年の冬に発売予定です。将来この品種が、日本のワイン造りを支える品種となるように今後も研究を続けていきます。
5、次の5年に向けて、兎ッ兎ワイナリーが取り組むこと
当社は、『農地を150%(2022年比)まで拡大』します。
少子高齢化や農業の後継者不足に起因する「耕作放棄地の増加」が問題となっている国府地域において、今後も耕作放棄地をぶどう畑等に転換することで農地の保全を行っていきます。2022年現在で1.6haある当社の農地を2027年までに1.5倍の2.4haに拡大することを目指します。
最後に
これからも地域の耕作放棄地をぶどう等の果樹圃場として活かし、サステイナブルなワイン造りに取り組むことで、地域の自然を守り、人々の健康で豊かな生活に貢献します。
注釈
※1鳥取市農業委員会 荒廃農地調査より
※2time-j.net 気温と雨量の統計ページ(https://weather.time-j.net/)
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